2012年4月24日火曜日

JMAものづくり応援WEB


全8回にわたった当連載シリーズでは、各回ごとに、以下のテーマに関して進め方とその視点、ポイント等に触れてきました。

  • 第1回「医薬業界のモノづくりにおける環境変化と課題」
  • 第2回「医薬業界における生産性向上活動の進め方(労働集約的職場)」
  • 第3回「医薬業界における生産性向上活動の進め方(プラント型職場)」
  • 第4回「製薬・製剤における設備改善の進め方」
  • 第5回「クリーン度向上のための2S(整理・整頓)の進め方」
  • 第6回「医薬品製造業界における人材育成について」
  • 第7回「医薬品製造業界における生産管理機能充実の重要性」【同時配信】

今回は最終回として、全体のテーマに共通した、その最終目的となる経営成果の獲得に結び付けるための「経営成果の見える化とマネジメントシステムの確立」について、考え方や狙い、ポイントについて解説いたします。


■生産性向上活動と経営成果の関連付け、見える化の推進

生産現場を中心とする生産性向上や改善活動を管理する指標としては、通常「生産性(投入量に対する産出量)」による指標を定義し、その生産性を何%向上させるのか、という目標値を立て、それに対する成果を測定していきます。

これは、生産性指標を拠り所に、毎年改善を積み上げていけば、結果として経営成果も向上してくるであろう、という想定に基づくものです。もちろん、生産性指標による活動の効果測定は、直接的に活動成果を把握するための有効な手段であることには変わりありません。

しかし、今日のように経済活動がグローバル化し、環境変化のスピードが加速する現状では、従来の生産性指標に基づく「ボトムアップ型」の改善活動だけではなく、望まれる経営成果を獲得するためにどのような指標を設定し、目標を付与していくべきか、また改善活動の成果が経営成果とどうリンクしてくるのか、といった経営成果重視型の「トップダウン型」による活動目標展開への転換が求められています。

そこで今回は、経営成果を重視した目標展開の方法について解説いたします。

ご存知のように、生産現場に直結する費用(コスト)としては、製造原価を構成する「材料費」「労務費」「製造経費」の3つがあります。各費用は「単価×量」から成り立っていますが、これらと医薬品生産現場における改善活動との関連を考えてみると、主に以下のようなものが挙げられます。


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「材料費」:使用量の削減→収率改善、歩留向上(材料生産性の向上)
「労務費」:・単価の引下げ→作業のパート化、外注活用の拡大
     ・人数の削減→作業従事工数の削減、残業削減(労働生産性の向上)
「製造経費」:設備活用度の向上→設備稼働率の向上(トラブル時間、休止時間等の削減)、省エネ推進等(設備生産性、エネルギー生産性の向上)

つまり、各職場における改善活動を展開するにあたってまず大切なことは、その生産品目の原価構成に着目し、改善効果の大きい費用に焦点をあてることです。そのステップを踏むことで、改善により大きな効果を狙い、かつ活動を効率的にすることができます。

材料費については、原材料から医薬品原薬(バルク)を製造する製薬工程などの職場では、原材料費比率が高いことが多いため、収率改善を活動テーマとして、材料ロスを定義・構造化し、そのロス区分ごとに定量的にロスを把握し、収率悪化の要因分析と向上策を考えることが有効な手段となります。(詳細は第3回参照)

労務費については、検査・包装職場のような人手が多くかかる職場では、IE手法を駆使することにより、いかに少ない人員・工数で作業をするか、ということを考えていきます。具体的には、人のロス構造化やライン作業分析等を行うことによって、改善を進めていくということが有効となります。(詳細は第2回参照)

また製造経費については、設備投資に直結する減価償却費をこれ以上増やさないために、プラント総合効率(プラント型職場)または、設備総合効率(ライン型職場)を測定・管理し、保有設備を最大限活用できるように改善を進めることが有効になってきます。具体的には、チョコ停などのトラブル停止時間削減や生産切替時間の短縮、バリデーション期間の短縮なども、検討すべき課題となってきます。(詳細は第4回参照)

このように、やみくもに改善をするのではなく、あらかじめ全体をみて、狙いと成果の大きさを確認・設定した上で重点化した取り組みを行なうことで、経営成果へ結び付いた取組みを展開することができます。

また、生産性向上や改善活動の成果は、定量的に設定・把握し、その状態を都度見えるようにするマイルストン管理をしていくことが活動を成功させるポイントとなります。


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なお、このような経営成果と活動成果を結び付けるには、活動当初においてKPI(Key Performance Indicator)を設定し、そのKPIを向上させるための活動指標(Performance Driver)を設定して活動に取り組むことが必須です。また、それらの設定したKPIを元に、経営成果と有機的に関連付けるKPI体系を構築していくことが、総合的な活動展開にあたっては不可欠となってきます。


■マネジメントシステムの確立

次に、生産性向上活動や改善活動を経営成果に結び付けるためのマネジメントシステムについて考察します。

P.F.ドラッカーは、マネジメントとは、「組織に成果をあげさせる機関」であると、定義しています。

つまりマネジメントは、会社や部門の状況が順調であったり好循環ができていたり、個人が高い能力を有し、発揮できていることで成果が上がっている場合には、さほど重要ではなく、極論を言えばマネジメントは不要となります。

しかし、組織が一丸となって大きな成果を生み出す必要があるとき、高い目標達成のためにある方向に向かって力を結集すべきときには、マネジメントの善し悪しが成果実現の成否のカギを握ることは間違いありません。

グローバルレベルで激変する今日の医薬品業界の環境変化や、コスト削減圧力が高い状況を鑑みれば、変化に対応して目標を定め、成果に結び付けるための改善活動をうまく回していくマネジメント体制の確立が、勝ち残りの条件とも言えるでしょう。

では、マネジメントシステムの確立には何が重要になってくるのか、そのポイントについて触れていきます。


<マネジメントの進め方>

マネジメントでまず最初に実施すべきことは、自分たちの目指す姿や到達点、向かう方向(ベクトル)を明確に設定し、示すことです。

具体的には、組織が向かうべき方向とその高さ(目標)を示し、我々が今どこに向かっていて、その到達点の高さがどれくらいなのかを明確にすることです。

そのためには、現状の立ち位置を正確に把握し(現状分析)、目指す姿を設定し(目標設定)、その姿にたどり着くまでのGAPを認識して共有すること、そして、そのGAPを埋めるためには何をすべきかを明らかにしていくことが必要です。

現状の立ち位置を正確に把握するためには、今の状態がどういう状態で、定量的にみるとどうなのかといった、現状分析をさまざまな角度から客観的に明らかにしていくことが重要です。具体的には、製造現場の状況を3M(Man,Machine,Material)やQCDの切り口から、定量的に分析して明らかにしていくことになります。


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次に、「目指す姿」となる目標を設定し、その到達地点と時期を共有します。目標設定の際には、夢やありたい姿を上位者が示し、それを組織にブレークダウンしていく目標展開型の進め方が望ましいです。

これらの現状分析と目標設定、GAPの認識ができれば、次に実現に向けた活動をスタートします。その際は、目標に向かう道筋から逸れないように、小まめにPDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクルを回して、必要な軌道修正をしていく必要があります。特にマネジメント層は、PlanとCheckを意識的に重視すべきです。そうしたサイクルを確実に回す過程を通じて、マネジメントが確立されていくのです。

<マネジメント基盤の確立>

上記のようなマネジメントを実行するにあたって、実行するための基盤を整備することも欠かせません。基盤としては主に、人に関する教育面と情報基盤の整備面の2点が焦点となります。

人の教育面では各部門、個人の力をつけさせることです。実行にあたっては、IEやQC、VEなど現場改善を進めていく上でのツールについて教育を実施し、「知っている」状態から「使える」状態に、さらに「教えられる」状態にまでレベルアップを図っていくことが必要となります。

また医薬品生産という特性を踏まえれば、これまでは「安全」「品質」意識を最優先に考えてきた作業者に、新たに「効率」や「時間」の概念を浸透させ、モーションマインドを醸成し、体質や風土から変えていく意識改革を粘り強く行うことが必要です。

また同時に、マネジメント層には、一つ視点を上げ、前述したPDCAサイクルの回し方について理解し実践していけるように、マネジメント教育を実施することも重要です。また、延長の意識からマネジメントする立場への、優秀な担当者の意識改革も必要となります。

情報基盤の整備面では、医薬品生産は査察対応なども含めて品質面を中心に膨大な記録を残す必要があるため、他業界での製造の何十倍ものデータを蓄積しているのが普通です。しかし、データが散逸的に保有されていることが多く、データの活用面ではまだ多くの課題があります。これらの保有するデータの活用については、「何の目的で収集しているのか」「収集を止めたらどのような影響が出るのか」といった問いかけを今一度行い、「どのようなことを知りたいか、明らかにすべきか」ということに立ち返り、目的に応じて収集すべき情報を再度整理していくことが求められます。


また、情報集数工数をなるべくかけないように、ITの各種ツールを活用して効率的な収集と分析ができるようにしていくことが、継続的な実施には欠かせない要素となってきます。


■最後に(全体総括)

全8回にわたる今回の連載では、医薬品製造という「ものづくり」現場での生産性向上や改善の視点、ポイント、進め方について解説してきました。

我が国においては、薬価は政府によって統制をされる「公定薬価」制度をとっており、自由に価格が設定できないため、価格を上げることにより利益を創出するという方法は成り立ちにくい状況にあります。むしろ、医療費抑制のためにも、今後はさらに薬価引き下げが加速する可能性が高い状況下にあります。

また、ますまずグローバルでの競争が激化する医薬品メーカーにおいては、変化に対応し、改善活動によりコストダウンを積み重ね、その中で生み出される知恵やノウハウを蓄積し、活用していくという企業努力をすることが、勝ち残っていくために不可欠であることは間違いないと考えられます。

そのような中で、今回の連載で触れてきたように、現場を中心とした活動を計画・展開し、成果を獲得していくという改善のPDCAサイクルを着実にコツコツと回していくことが、競争力を高めるために必要であるのは間違いありません。

また、改善を実行するにあたっては、やみくもに改善に取り組むのではなく、改善活動自体も効率的にかつ効果的に実施していくことも必要です。

読者の皆さまの職場では、大きな成果を狙った改善の取り組みを、既に計画的に実施されているでしょうか。

これまで製造原価率の低さからあまり注目されてこなかった医薬品原価についても、多くの企業で早急に取組みを始めています。

今回の連載の項目をヒントに、医薬品製造業の皆さまが絶え間ない改善活動に取り組まれることを執筆者一同、心より願っております。

※今回の連載につきまして、ご意見・ご相談等がございましたら、以下までご連絡いただけますと幸甚です。



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